2014-01-01から1年間の記事一覧

脳と心 〜発達障害者の物語 序の7 発達障害と反対の発達障害〜

発達障害の特徴的な症状として、コミュニケーション能力の問題がよく話題になる。人の気持ちが分からない、その場の空気を察知することができない、自分が人からどう見られているかを考えられない、などなど、学校、職場、趣味の集まりの場などでも、このあ…

脳と心 〜発達障害者の物語 序の6 自分の親が発達障害だったら〜

太宰治の『人間失格』の「第一の手記」に、主人公が子どもの頃のことが書いてある。父親が出張で買ってくる子どもへの土産について、主人公は本が欲しいが、父はもっと“子どもらしい”獅子舞のおもちゃを買い与えたいと考えている。主人公は獅子舞のおもちゃ…

脳と心 〜発達障害者の物語 序の5 高齢者の発達障害はどうなっているのか〜

発達障害というものが話題になった最初の頃は、ほとんど専ら「子どもの発達障害」についてだったように思う。 自閉症は、もっと以前から知られていたが、子どものさまざまな“問題行動”が、家庭環境や教育の問題ではなく、脳の機能の問題が原因であることが唱…

脳と心 〜発達障害者の物語 序の4 分類がよく分からない〜

今年(2014年)の5月28日に、日本精神神経学会が「DSM-5病名・用語ガイドライン」を発表し、新聞等でも報道があった。 いわゆる発達障害とされるいくつかの精神疾患の名称を、アメリカの新しい診断基準である「DSM-5」に沿って、これまでのものから変更した…

脳と心 〜発達障害者の物語 序の3 発達障害も文化によってだいぶ変わる?〜

公の場では本音を隠したり、感情を押し殺したり、言葉の裏を読んだりする“大人”の行動は、一種の文化であり、日本社会では特に強いものであろう。 欧米では自分の意志や考えをはっきりと主張をすることが多いそうだし、明瞭に言語化するようだ。中国や韓国も…

脳と心 〜発達障害者の物語 序の2 『坊ちゃん』は発達障害タイプだから魅力的なのだ〜

さて、発達障害と自分の内面の発達史のようなものを考える中でふと思い当たったのは、さまざまな物語に登場する発達障害についてである。 古今東西のいくつもの物語の中で、奇異な人物として描かれる中に、発達障害としての特異な言動が表れているのではない…

脳と心 〜発達障害者の物語 序の1 発達障害をもっと知りたい〜

数年前に、発達障害という脳の働き方の“問題”があると知って、興味を引かれた。少しずつその内容を知るにつけ興味は深まり、今はすっかり取りつかれてしまった。 発達障害とはどういうものなのか知りたい、という気持ちと同時に、なぜ私は発達障害について強…

私の戦争1964 〜いくつかの7月1日〜

私が生まれる19年前の7月1日、すなわち1945(昭和20)年の7月1日は、どんな日だったろう。私の手許にある、戦時中の作家らの(刊行された)日記をいくつか調べてみた。 『ある科学者の戦中日記』(富塚清/中公新書/1976年)。著者は、ジェットエンジンの権…

沖縄慰霊の日を迎えて 『4日間の沖縄 最終日 沖縄の戦地に咲く花を見た』

沖縄を去る日の朝も、大音声(だいおんじょう)放送には気づかずに目覚めた。 布団の上に寝転んだまま、窓から入ってくるさわやかな風を顔に受け、昨晩、那覇市内の小さな台湾料理屋で酔いしれたことを思い出す。シジミのニンニク醤油漬けの強烈な香りも、記…

沖縄慰霊の日を迎えて 『4日間の沖縄 第3日後半 沖縄の基地を訪ねる』

昼飯は、また梅原君おすすめの沖縄そば屋へ行った。私としては、沖縄にいる間にできるだけたくさんの沖縄そばを食いたいので、大歓迎だ。 丘陵を昇り降りする道の途中にある、大きな沖縄そば屋に入った。 この店もそうだが、多くの飲食店は、そのたたずまい…

沖縄慰霊の日を控えて 『4日間の沖縄 第3日前半 故地を訪ねる』

3日目の朝を迎えるにあたって、梅原君から事前に2つの助言があった。 1つは、朝7時の「朝のあいさつ」大音声屋外放送は、3日目には不思議と気づかなくなり、寝坊するにしても睡眠に差し障りがなくなるということ。 もう1つは、民宿の朝食は、予告された時間…

沖縄慰霊の日を控えて 『4日間の沖縄 第2日後半 街の「ち」を見る』

やって来られた考古学研究者は、名護博さんという沖縄本島出身の方で本職は農学博士、現在は瀬戸内短期大学で教授をしておられるそうだ。 私が滞在している短い間にお会いできたというその偶然は、私にはまったくの幸運であった。名護先生とは翌日の朝に再会…

沖縄慰霊の日を控えて 『4日間の沖縄 第2日前半 おばあのバナナ牛乳』

「皆さん!! おはようございます!!!」という、窓外からの大音声(だいおんじょう)が耳に飛び込んできた。 思わず「ううっ」とうめいて、眼鏡を掛けないまま、枕元の携帯を手探りで探し引き寄せ、顔にうんと近付けて見る。午前7時。“元気いっぱい”の声は…

沖縄慰霊の日を控えて 『4日間の沖縄 第1日後半 本土からの客』

その居酒屋は、建物の1階にあり、オープンテラスのような席も外に設けてある居酒屋だが、店内は、東京にあるような大きな居酒屋と変わらない。ただ、周囲には他に店もなくビルもなく、ぽつんとそこに店がある。お客は結構たくさんいて、外の寂しさに比べると…

沖縄慰霊の日を控えて 『4日間の沖縄 第1日前半 宮古島から那覇へ』

1945年6月20日の前後、沖縄での米軍との激烈な戦闘はほぼ終了した。日本で唯一の地上戦であり、多数の沖縄県民が亡くなった。それから69年を経ているが、沖縄にはたくさんの米軍基地が存在している。これは言うまでもなく日本全体の問題である。そして現在日…

僕のTOKYO1964 〜貨物列車のでこぼことともに消えたもの〜

「長き長き春暁の貨車なつかしき」。これは、加藤楸邨という人の句だそうで、中学校だったか高校だったかの国語の教科書に載っていた。 物心ついた時分から大学に入るまで、私は東京の駒込に住んでいた。そこは父の会社の社宅で、門を出て左に百メートルほど…

心と脳と体のこと 〜動物性脂肪の過剰摂取〜

動物性脂肪、とりわけ陸上動物の脂肪は、古今東西を問わず人類にとって強い嗜好のある食べ物であったろう。 かつて人間の摂取カロリーは総じて少なく、地域によっては常に飢饉の危機にさらされていれば、高カロリーの動物性脂肪は、自然と人間の最も好む食物…

わたくし的には 〜差別は簡単でしかも快感でもあろうか〜

生まれついて持っている「もの」で、他者を差別するのは、とても簡単で、しかもなかなかの快感でもあろうか。 どの人種に生まれた、どの民族に生まれた、どの国に生まれた、どんな家柄に生まれた、どんな経済状態の家に生まれた、どんな身体で生まれた、どん…

僕のTOKYO1964 〜「元大中小」または「いんさい」というボール遊びの名称〜

私が小学校の頃、1970年代に「元大中小」「天大中小」または「いんさい」というボールを使った遊びがはやった。 地面に大きく十文字に線を引き、4つの陣地それぞれに「元」「大」「中」「小」と名前をつけて人が立ち、バレーボールの大きさのゴムボールを4者…

音楽の力を信じて 〜高校吹奏楽部の思い出〜

私が入った高校は、東京の北の外れにある公立高校で、創立してからまだ新しく私は第七期生であった。 入学式後、数日もしないうちに私は楽器の音を頼りに吹奏楽部の練習場所へ行ってみた。しかし、そこは音楽室ではなく家庭科室であった。あたたかく歓迎して…

旅のそぞろ神に引かれて 〜寒の入りに天竜川を下る〜

親の隠居所より正月五日に居住地に戻らんとす。隠居所は南信州の伊那地方なり。ここより天竜川に沿ひて飯田線鈍行列車にて豊橋へ南下せる途上、中部天竜なる駅にて一時間近ひ待ち合はせあり。天竜川の深く且つまた広き渓谷を臨む閑静なる駅なり。閑を如何せ…