振り込め詐欺に振り込みたい気持ち

 先日、ある金融機関の窓口で、今まさに振り込め詐欺に遭おうとしているとおぼしき年配の女性がいた。
 窓口の係員は「まず娘さんに連絡を取りましょう」「娘さんは今お仕事中でしょうか」「お仕事中なら、後で連絡をして、それから考えましょう」「警察に相談しましょう」と、すぐに振り込まないよう懸命に説得するものの、その女性は大変に焦っていて、説得されると不愉快極まりない、といった表情になって、抗弁する。
 結局、その日は振り込むことはせず、翌日あらためて窓口に来てもらうことで、女性は帰った。やはり極度の不快感と緊張感を全身で現したまま。
 その後、警察官が来て、係員と何やら相談をしていた。
 
 お年寄りが大切に貯めたお金をだまし取るような、振り込め詐欺師は、本当にぶちのめしてやりたい気持ちになる。
 しかし、一方では、これだけ振り込め詐欺が横行する背景として、自分の子ども(や孫)の窮地を助けたいという親心だけではなく、中には、とにかく離れて暮らす自分の子どもと交流を持ちたい、という人たちの切ない思いが感じられて、こちらも切ない気持ちになる。

 被害に遭う人のすべてがそうではないだろうが、中には、「窮地に陥った我が子を助けることで、自己実現を果たす」という意識が働いているのではないかと思う。
 もちろん、被害者に落ち度があるということではないし、そういう意識につけ込む詐欺師は本当に許せないものがある。
 ただ、よく聞く話しとして、どんなに周囲が説得しても、それを詐欺だと認めずに、振り込もうとする人が多いということ、がある。
 「振り込みたい」のである。誤解を恐れずに言えば、「詐欺でもいいから振り込みたい」そんな気持ちさえ無意識ながら抱いている人さえいるのかも知れない。

 だから、振り込め詐欺の被害を防ぐためには、社会全体が、「振り込みたい」というお年寄りの気持ちに、善意から寄り添う、そういった配慮、考え方、システムが必要なのではないかと、思う。