誤った歯の治療で体験できた激痛の思い出

 前回書いた青山の歯科医院にかかったきっかけは、その頃住んでいた地域の歯科で、間違った治療をされたことだった。
 学生が終わる頃だったが、歯が痛くなって地元の歯科医院へ行った。医師は、歯の神経を除去するといってその治療をした。痛みはなくなるはずであった。
 しかし、痛みはいっこうになくならなかった。その直後だったか、後日だったか失念したが、歯をドリルで削り始めると、その痛さは尋常ではなく、あまりの激しさに脂汗をかき、体は硬直した。
 若かった私は、それでも耐えなければならないと思ったが、口を開けながら、ううーっ、ううーっと声が出るのを止められなかった。失神寸前までいった。
 その医師は、私が極端に痛さに弱い人物だと思ったかも知れない。
 
 だが、今までに経験したことのない痛みでもあり、親に相談したところ、青山の歯科医院を紹介してくれて、さっそく予約をして受診した。
 私は、地元の歯科医院で治療して、神経を除去してもらったはずだが、耐え難い痛みがあることを告げた。
 青山の先生は診察をしレントゲン写真を撮ると「この治療をした方は、若い方でしたか、年配の方でしたか」と聞いた。私は若い医師だったと答えた。すると先生は「神経が枝分かれしていたのですが、それを見落として、神経が残っていたのです」と見立てを述べた。
 つまり、若い医師で経験と知識不足だったため、枝分かれした神経に気づかず、神経を残したまま、禁断の治療をしていたのである。
 神経のすぐ近くか、神経そのものかは分からないが、そこらあたりをドリルでブイーンとやっていたのだから、激痛で失神寸前までいくのも無理はない、と後で思った。
 
 予防は自分でもできるが、治療は自分ではできない。自分では解決できない問題が降り掛かるのは、とてもつらい。
 まさに、まな板の上の鯉であり、生きていく途上では、そういう状況に少なからず直面することがあるのだと、思い知ったできごとであった。