シリーズ「電車で業」7-読書の同好の士を見た

 電車の中で、取り憑かれたように携帯メールやゲームをやっている人を見ると、哀しい気持ちになるのだが、“紙”の本を読んでいる人を見ると、少しうれしくなる。
 そういう人が近くにいるとつい、何の本を読んでいるのか覗き込んでみたくなるが、読書の秘密を侵すのは良くないと思うし、ちらっと見てもたいていは何の本か分からない。それにカバーが掛けてあることも多いので、表紙を見ることもなかなかできない。
 ところが今日、終点も近くなり空いた電車の中で、少し離れたところにいた人だったが、その人の読んでいる本がはっきりと分かった。
 武田百合子の『富士日記』の、しかも文庫ではない単行本だった。上中下刊のどれであったかは不明であったが、私も好きな随筆なので、これはとてもうれしくなった。
 武田百合子の随筆は、発刊された当時、若い女性に人気があったということだが、その車中の人も若い女性であったから、そうした人に好まれるのかも知れない。