北杜夫の随筆と訃報
中学生くらいの頃に、北杜夫を読んだという人は、私の世代かもう少し上に多いだろうか。
私は、子ども向けの読み物にしても小説にしても、まったく読んだことがなかった。遠藤周作の随筆などで、「第三の新人」の一人であることを知っていたくらいで、後に斎藤茂吉の息子であることを知った。兄で精神科医の斉藤茂太は、私が前に勤めていた精神科医療専門出版社の刊行物に寄稿していた記憶がある。
少し前に購った『温泉百話』(種村季弘、池内紀編、ちくま文庫)に、北杜夫の随筆「父茂吉の匂いを訪ねて(銀山・蔵王)」というのがあって、私は寝床で初めてその文章に触れた。
その翌日、北杜夫の訃報に触れた。
もちろん偶然であろう。しかし、これまでも何回か、作品(文学でも音楽でも映画でも)に触れた直後に、その作家の訃報に触れたことがある。
こうしたことは強く印象に残るもので、私としては、その印象と、その時に触れた作品を大切にしたいと思っている。