物干し台

 私はずっと集合住宅暮らしなので、一軒家の「物干し台」というものを知らない。
 いや、一戸建てに暮らしていても、昔の日本家屋の物干し台を知ることは、高度経済成長以降は難しいだろう。
 杉浦日向子の『風流江戸雀』(新潮文庫)に物干し台の様子がわずかに出てくるが、私はその絵が好きだ。物干し台に、晴れた日に洗濯物を干すのはもちろん、休みの日に上がってぼんやりと甍の波をながめたら、さぞ良かろうと思う。
 『昭和30年東京ベルエポック』(川本三郎編、田沼武能写真、岩波書店)を見ると、昭和20年代から30年代にかけての、銀座通り、上野松坂屋下、新宿駅南口あたりの民家に、いくつも物干し台がある。
 今では考えられないほどの、古い風景である。
 どこかに今でも残る物干し台があったとしても(浦和界隈でいくつか見たが)、周りの景色が現代風じゃ、ちょっと面白くないかも知れない。