駅のホームのラーメン

 東武伊勢崎線西新井駅のプラットホーム上に、立ち食いのラーメン屋さんがある。都内と近郊を含めて、駅のホームのラーメン屋さんというのは珍しいであろう。しかもここは、ずっと昔からあるのだ。そのラーメンを食べた。
 
 スープはおそらく鶏ガラであっさりしており脂肪分は少ないが香味野菜の加減が良いのか味はしっかりしている。醤油ダレには醤油がたっぷりと使われていて味は濃い、麺はストレートの中太、丼は小振りで彎曲のない猪口型。
 
 自販機で食券を買って出すと、丼に醤油ダレと長ネギを入れるところから調理が始まる。麺は大きな両手の中華鍋で茹でて、平型の網で上げる。中華鍋は2つあり、湯を取り替えるために交代で使う。火はかなり強く、麺はよく踊っている。スープを丼に入れ、麺を入れる。
 
 具のチャーシューは醤油ダレでの煮具合が良く、厚手ながらタレの甘辛さがしっかりしみている。肉の味も活きていて脂身の加減と歯ごたえも良い。他に具は、メンマとワカメと鳴門巻。
 
 麺はぱらっとしていてつるつる感が良い。スープは少なめだが色が濃くで麺と良く絡む。そして胡椒が良く合う。ラーメン400円、チャーシューメンはチャーシューが4枚で600円なり。チャーシューメンにはゆで卵の半分のものが入る。
 
 他に、モヤシ麺(茹でたモヤシを載せたラーメン)、ワンタン麺もあったか、カレーラーメンというのもあったような、カレーライスもありこれはすぐに出てくるようで、夏はざる中華というのがある。
 
 私は絶対にラーメンかチャーシューメンしか頼まないので他の品書きは詳しく知らない。ただ、驚いたことに、今日はかき氷が品書きにあった。150円である。
 
 この店は、ホームの階段下にL字型のステンレスのカウンターがあり、その中に調理場があるだけで、食べる場所とプラットホームとの境はない。つまり明確な食べる場所はカウンターの回りだが、境界がないので、丼を持ったまま、後ずさりすればホームのどこへでも、そのまま行ってしまえる。
 
 そういうところがあいまいで、ローカルである。その不確かさというか不安感は、私に眠りに就いた後の楽しい夢の材料を与えてくれる。そういえば、この店は屋号もないようだ。
 
 私がこのラーメン屋さんでよく食べていたのは、四半世紀も前の学生時代で、大学1年生の時だけ、都内で最も長いといわれているらしい路線バスで西巣鴨から西新井へ出て、そこから東武線で越谷の先の方へ通っていた。
 
 ぐずぐずと西新井まで出て来たものの、その頃には授業に間に合わないことが明らかになり、ラーメンだけ食って再びバスに乗って帰るという、まったく自堕落なこともよくしていた。
 
 ここ最近、このラーメンが懐かしくて、打ち合わせや取材の行き帰りに、わざわざ遠回りをして寄ることがある。味が変わっていないのがうれしい。
 
 何よりも、どこかで見たような店でなく、クローン増殖したような店でなく、昔からの味わいのしみこんだ、そして不安定さを残したような店であることがうれしい。
 
 こういうものに時々触れないと、少なくとも私は、精神が不安定になる。