うなぎの肝焼き

 昨晩、新宿の思い出横丁のうなぎの肝焼き屋「かぶと」で一杯、いや熱燗を三杯飲んだ。肝焼き、ひれ焼きなど、私の身体には本当は良くないのだが、うまかった。
 
 かね尺形に椅子が並んだだけの小さな店だが、炭火でぱたぱたと焼いてくれるそれらの串焼きを一とおり、焼き上がる間合いを計りながら、コップの熱燗をぐいぐいやる。うまいということもあるが、心持ちが良い。
 
 さて、そうしたものばかり食って飲んでいるのも、問題があるので、今日の晩餉は、ご飯に、なめこと豆腐の味噌汁、かれいの煮物、ひじきの煮物(こんにゃく、にんじん、あぶらげ入り)、ほうれんそうの胡麻あえ、ということにして作って食った。
 
 こういうものも、心の底からうまいと思えるから東洋医学的な意味での身体の感知装置は、まだ必ずしもいかれてはいないかも知れない。
 
 岩波文庫版の「谷崎潤一郎随筆集」は今晩はひとまず置いて、新潮文庫版の「遠野物語」を本当に久しぶりに読みながら寝てみよう。
 
 恐い話しや不思議な話しは、精神安定剤の代わりに十分なり得る。ただし、質が良くなければならない。
 
 その点では、他に、絶版となった『日本怪談集 幽霊編』と『日本怪談集 妖怪編』(ともに今野圓輔編著 教養文庫 社会思想社刊)とこの遠野物語、それから新潮文庫版の『小泉八雲集』(上田和夫訳 これはこの訳者に絶対に限る)、『山とお化けと自然界』(西丸震哉著 中公文庫)などと他に数冊。
 
 これらに勝る本はない。