旧友が鎌倉辺に転居して

 東京周辺からしばらく離れていた旧友が、鎌倉辺に引っ越して来た。
 彼は一人暮らしでもあり、引っ越し祝いのつもりで、一升瓶を持参した。といっても、自分も一緒にその場で飲むつもりもあって。
 その酒は、これまで私が飲んだ中でいちばんうまいと思っている、山形の「住吉」であった。木の樽で仕込んでいるため香りが良く、辛口で、山吹色をしている。落語などでは「いや、どうも、あの山吹色を見るとたまりません」などと言っているが、まさに昔ながらの酒の色ということだ。
 彼の住まいは、斜面にあって眺めがすばらしく、とても気持ちの良い風が通る。
 途中で購った三崎港で上がったという刺身を肴にして、茶碗についだ住吉を飲みながら、映画の話しなどをした。
 新しい生活は、これまで苦労があったとすればそれらを洗い流し、これまで蓄積してきたものがあったとすればそれらを開花させるものだと、私は思う。
 彼の新生活を、寿ぎたい。
 けれども、ずいぶんと飲んでしまった。ごめんなさい。