金木犀の香りが大好き

 金木犀の香りが大好きだ。もう理屈抜きに好きだ。
 いや、そもそも秋の空気のにおいが、もうたまらない。
 秋の空気。その空気に混じり合えば、どんなにおいもすばらしくなる。
 湿った土のにおい、乾いた道路のにおい、どこかの台所で作っているごはんのにおい、洗い立ての服のにおい。
 たばこのにおいや排気ガスのにおいさえ、秋の空気に混ざると、懐かしくなる。
 そう、秋のにおいは懐かしい。
 毎年、空気のにおいが秋に変わると、いつどこでかいだにおいだったのか、思い出そうとする。
 そして思い出す。毎年、子どものころからずっとかいできた秋のにおいだったのだと。
 いそがしい時には、思い出すまでしばらくかかる。ゆっくりしている時には、すぐに思い出す。
 もう何十回も、秋になると思い出そうと考えて、そして、思い出している。でも毎年必ず、秋になるとそれを繰り返す。