とんかつをゆっくり食った

 神田神保町で打ち合わせがあり、午後からだったので、今日の昼食はこの界隈で食おうと思った。
 
 外食に際しては、良い条件をできるだけ整えたい。食いたいもの、行きたい店、腹の空き具合などが整わなければ、無理をして食わない。条件が整うまではと、17時くらいまで我慢することさえある。
 
 それでも都合上、悪条件の中で、たとえば、あまり気の進まない店で、あわてて食うような羽目に陥った時は、その日はもちろん、数日間、虚しい。
 
 今日は、とんかつを食おうと考えていた。食おうと思った店は、昔からよく知っている家で、安価でうまいが、いつも慌ただしい雰囲気なので、そこに巻き込まれると、気分がよろしくない。
 
 そこで、時間に余裕を持って行き、ゆっくり食う準備を整えた。幸い、その時間は、私の後ろに客が並んで待っているということはなかった。
 
 さて、充分に味わい、腕の底に残った小さな蜆の身を落ち着いて箸で拾い上げ、奥歯で咀嚼し、嚥下し、ぬるくなった濃い目の茶をがぶりと飲んで、尻のポケットから財布を出すのも慌てずに、ちょうどあった小銭を使って、ゆっくり確実に勘定を済ませ、のれんを額で分けて、外に出ると、風が涼しかった。ごちそうさまでした。