鉛筆で夜の街角を細密に描く画家

 ずっと前に取材させていただいた、鉛筆で夜の街角を細密に描く画家がいらっしゃる。消しゴムは一切使わずに、細密に細密に端から描いていって、端までいったら完成。非常に特殊な技法あるいは能力をお持ちだけれども、私には、この方の、夜の街角を描いた絵そのものがすばらしく、大好きなのだ。
 
 この方は安住孝史さんという、もう70の齢を越えていらっしゃる方だ。金曜の夜、この方の個展を観に行った。すばらしかった。そしてこんなことを考えた。
 
 深更に及んだ路地の隅、そこにわずかな光があるならば、それは人がいるということ、いや、その場にいなくても、どこかにいる、ということだ。
 
 月明かりに照らされて、建物がかすかに浮かび上がったときも、やはり、おなじことで、どこかに、人間が生きていることの証明なのだ。いくつかの、わずかな光を抱えた、夜の世界の、何というあたたかさだろうか。
 
 どんな人でも、きっと心のどこかに持っている、あたたかい心、それが、街に灯りが点る頃になると、いろいろな人からそっと抜け出して、集まって、夜の街の、どこかの片隅に、かたまっているのかも知れない、もぞもぞと、肩を寄せあって。
 
 安住孝史さんの個展は、12月28日(月)まで、池袋のギャラリー「ここ!ふらここ」で。
http://www.furacoco.co.jp/