こんなものを作って食った 第1回 〜マトンカレー〜

こんなものを作って食った

 食い意地が張っているのと、家で仕事をしている時間が多いのとで、よく料理をする。それらの料理の中で、特別な思い入れがあったり、そんなものはなくてただ単に好きな食べ物だったりを、エッセイ付きのレシピで紹介する。ただし、レシピには分量などはほとんど記していない。分量を計って作っていないからである。つまり感覚的で適当なレシピである。
 ホームページ掲載時には数枚の写真で手順を紹介したが、ブログ上では写真の掲載方法が私の不勉強によって不明なので、完成写真のみをface book上に載せている。


〜第1回 マトンカレー〜

 羊の肉が好きだ。だからマトンカレーも好きだ。インド系(国でいえばパキスタンバングラデシュ、ネパール、スリランカも含む)の人がやっているインド料理屋でも、必ずマトンカレーを食う。自分で作れば、安く、たくさん、人目をはばからずに大汗かいて食える。


1、カレールウは使わないが、いわゆるガラムマサラは入れる。ガラムマサラは、インドの各家庭で異なる配合した香辛料のことだというが、それを誰かが配合したものが販売されている。ここでは、市販のガラムマサラの他に、赤唐辛子粗切り、八角の種(ホール)、月桂樹の葉、カルダモン(これはホール状のものがあればいいのだが、ここではパウダー)、赤唐辛子粉末、クミン、黒コショウ、シナモン、ココアを使った。
2、羊の肉は、厚切りのものを使う。骨付き肉だったらもっと良いのだろう。コリアンダーパクチー、香菜とも)、ミントの葉はふんだんに使う。ミントは郊外にはよく自生している。人さまの庭先などでなければ、一応、無主物と思われ、採取することも可能だ。
3、タマネギは1個くらい、ニンニクは1株、ショウガも多めに入れてしまう。この他に、ヨーグルト、トマト缶も使うが、香辛料を除けば、材料としてはそれほど多くない。
4、時間をかけて、多めの油でタマネギを炒めると、かさが減って、飴色になる。ここにすりおろしたニンニク、ショウガ、ホール状の香辛料全部と、それ以外の香辛料の半量を入れる。弱火でじっくり念入りに炒める。やがて良い香りが立ちのぼってくる。
5、弱火のままヨーグルトを入れる。ヨーグルトは、自家製のカスピ海ヨーグルト。ずっと弱火で。コリアンダーとミントを放り込んで炒める。葉っぱが炒まったら、肉を入れて炒める。肉が炒ったら、水をひたひたになるくらい入れて、30分以上煮込む。
6、充分に煮込むと、香りがすばらしく良くなる。煮込んだら、トマトと残りの香辛料全部を入れて、さらに20分くらい煮込んで、塩で味付けをする。米飯は、タイ産の長粒米を使った。


 インド文化圏では、中国文化圏と異なり、発酵調味料に出会うことがなくなり、料理の味付けは、塩と香辛料になる。以前に2回、北京から陸路でシルクロードを通ってパキスタンまで至ったとき、まさにそれを実感した。
 インド文化圏の副食の食材としては、肉も魚も野菜もあり、調理方法は焼く、煮る、炒める、揚げるなどで、中国文化圏のそれとそう変わらない。その中で、香辛料を使って、肉や魚や野菜を煮込んだ料理が、つまり、すべてカレーと我々が呼ぶものなのだと思う。日本ではカレーは、多くある洋食メニューの一つだが、インド文化圏では、香辛料で煮込めばそれはカレーで、香辛料の加減と、食材の組み合わせで、無数に種類があるのだろう。
 中国文化とインド文化の両方を受け止めているタイでは、香辛料の煮込み料理に魚醤(ナンプラーなど)が加わってこれがすべてカレーとなる。私は、ココナツミルクが入っているものも多く見かけた。
 マレーシアでは、ショッピングモールや駅の食堂にはカフェテリア方式のものがあるが、ここでは「米のご飯と何かカレー」とか「チャパティーと何かカレー」といったことで料理を選んで取る感覚ではなく、適当な主食数種と適当な副食数種を選ぶ際に、焼いた鶏や炒め物と一緒に煮込み料理を取り、その煮込み料理がつまり日本でいうカレーであった、という感覚だった。
 香港に重慶(チョンキン)マンションという建物があった。いや、今もあるのかも知れない。ここで本格的なインドカレーを食うことができ、やはり私はマトンカレーを食った記憶がある。この重慶マンションは、九龍の巨大な雑居ビルで、最下層の宿屋が密集しており、中にインド人経営のインド料理屋が何軒かあった。
 香港はイギリスの植民地であった関係で、やはりかつてイギリスの植民地であったインドからの移民が多い。そうしたインド人向けの料理屋だったのだろうが、今香港に行って、そうした店があっても、入る気にはならないだろう。
 あの時は、非常に治安が悪いと言われていた雑居ビルの中の、得体の知れない密室のような店で、一人でマトンカレーを食ったわけだが、まったく酔狂なことであった。そんな店に入るのは危険だからという意味もあるが、今は日本で、いくらでもかなり本格的なインド料理が食えるからである。
 今から20年ほど前に、ようやく東京のいくつかの場所で、本格的なインド料理を手軽に食うことができるようになったが、これはおそらくパキスタンからの労働者の流入が増えたこととも無関係ではないと思う。
 羊肉が大好きになっていた私には、ケバブーやマトンカレーが、その気になればいつでも食えるようになったのは、ありがたいことであった。