名曲喫茶ライオン

 知人のいる吹奏楽団のコンサートを聴き終えて、渋谷で少しのんびりしようと思い、道玄坂にある名曲喫茶ライオンに行った。
 1926年創業で、建物も焼け残ったらしく、知る人ぞ知る、クラシック喫茶の老舗である。
 ここのコーヒーは、濃くて、しかし何よりもミルクが植物性の気味悪いほど真っ白な合成ミルクでないところが、うれしい。
 さて、しばらく居て、そろそろと帰ろうか思ったら、ベートーヴェンの第九を掛けるというので、最後まで聴くことにした。
 フルトヴェングラー指揮、バイロイト祝祭管弦楽団および合唱団による1951年のライブ録音版である。フルトヴェングラーの晩年の録音ということになるだろう。
 なんというか、文字通り、生々しいというか、活き活きしているというか、人間くさい演奏であった。
 ライブだからしわぶきが聞こえたりするが、そんなことではなく、トロンボーンやホルンなど、少しあやうい感じがするし、4人の歌のソリストの声も聴衆を前に歌っている緊張感と高揚感が伝わってきて、聴いている私は興奮を覚えた。
 普段から変に整えられた録音ばかり聴いていると、こういう生々しさには少し違和感を覚えることもあるが、しばらく聴いていると断然引き込まれる。
 やっぱり、人間の心から発して心に至るものだ、音楽というものは。