岡本かの子『鮨』

 私の大好きな本に『東京百話』(種村季弘編 筑摩書房)というのがある。「天の巻」「地の巻」「人の巻」と3巻あって、東京に関するさまざまな随筆を集めたものだ。
 寝しなに読むのも良いし、電車の中で読むにも良い。ほろ酔いで読むのにもこれまた良い。
 作家、芸人、職人などいろいろな人が、明治から昭和にかけて書いた短編の集まりである。
 これは絶版になっていて、集めるのに随分と探した。
 その中に、岡本かの子の『鮨』という短編がある。元は『文芸』(昭和14年1月)で、『岡本かの子全集4』(冬樹社・昭和49年)に転載されたものの、転載である。
 『東京百話』のほとんどが随筆であるのに対し、これは珍しく小説で、短編ではあるが、他に比べると長いこともあって、この本の中での存在は十分に認識していたが、何となく敬遠していた。
 それを枕元で開いて、読んでみたら、びっくりするほどすばらしかった。ああ、文学であるかな。であった。
 どうして急に読む気になったのか、はっきりとは分からないが、先日、岡本太郎美術館に行ったせいもあるだろう。
 言うまでもなく、岡本太郎は、この歌人でもあった岡本かの子の一子である。
 今日は、菊の節句だ。