桜花は人の心を惑わせるすさまじきもの

 桜の花には何の罪もないけれど、人の心を惑わせるものをもっていると、私は思う。
 ここのところ、対人関係に悩み、心に傷を負っていたが、桜の木が花によって大きくふくらんでくるにしたがって、心の傷もまた春の嵐にさらけ出される。
 毎年の桜花がいつもそうではないと思うし、昨日と同じ桜花が、今日は愉しく見えることもある。
 けれども、桜花は、愉しく見える時でも、どこかに狂気を潜ませている。これは梅の花には感じないことだ。木蓮や野の花、桜草の花にも感じない。
 桜の花は美しい。花のすきまに広がる、黄色がかった青い空も美しい。
 しかし、今、窓の向こうに、花でふくらみきった桜が、風で揺れているのを見ると、私の心も大きく大きく揺れ動くのだ。
 桜花の春よ、鎮まり給え。